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VOL.2

​ESCOT代表

​藤本治生氏

NPO法人ESCOT(特定非営利活動法人省エネルギー輸送対策会議)代表理事、藤本治生氏に聞いたインランドデポのこれまでとこれからと環境にやさしい運送、災害時にも効果を発揮するインランドデポ

​取材日 2019/10/28

PROFILE

​藤本治生:1983年OOCL日本支社に入社。以降、国内外問わず物流の効率化に取り組み、1997年に国際コンテナ輸送の環境負荷低減を具体的に実施するため、NPO法人エスコットを設立。現在はコンテナ・マッチングの普及の為の各種方法論の調査・研究や、DIY等で手軽に使える太陽エネルギーを回収するヒートルパネルの開発など、目先の利益にとらわれずに地球規模の温室効果ガス削減に貢献する活動に取り組む。趣味はサーフィンと空手。シニアや女性も無理なく楽しめるスロー空手る師範も務める。

◇非効率だった海上コンテナ輸送

 

吉田運送:お忙しい中ありがとうございます。本日は日本のインランドデポ普及に大きな影響を与え、弊社のラウンドユース事業にも多大な貢献・ご支援をいただいいるESCOTの代表示理事の藤本治生さんに、インランドデポのこれからとこれまでをお話しいただきたいと思っています。中でも環境への貢献、そして今まさに問題になっている異常気象などの気候変動に対する効果など、未来の話まで進めば良いなと期待しております。

 

藤本さん:わかりました。ではまず、ESCOTの経緯から始めましょうか。始まりは1995年頃です。茨城県、主につくば市周辺では、複数の大手製造企業が輸入と輸出を手がけていました。例えば米国の製造メーカーK社は守谷市で輸入、日本の製造メーカーS社はつくば市で輸出、という風に。各社のコンテナが空になると、輸入の場合は返却、輸出の場合は搬出、という動きをしていました。当時、コンテナのラウンドユースの取り組みはまだありません。しかし、S社は新しいことをする会社なのですね。傘下のS社ロジスティクスのドレージ(コンテナを陸上運送すること)の業務委託をしていたESCOTの設立メンバーの1人、茨城県のA運送の社長が、新しいことをどんどんやっていく人で。K社の輸入コンテナが空になったら、それをS社に持ってきて使えば、新しいドレージができると考えた。A社長がそのモデル作りをしていたのとほぼ同時期に、私も同じことを思い、A運送を訪れて話を聞いたのが、なんとも痛烈な話で。海上コンテナ輸送って、それまでは港湾地区の運送会社が独占していました。バブルの頃から、運送会社は足りていませんでした。足らなくてどうしたかというと、海外の貨物を必要としている荷主が、直接デバン(輸入コンテナの荷卸し)場所周辺の運送会社に対してドレージをやりなさいと融通させたのですよ。それから、地方で海上コンテナを動かす運送会社が増えてきました。S社も輸出のために、まず空のシャーシ(何も積んでいないコンテナ台車)で京浜港まで空コンテナを取りに行き、バンニング(輸出コンテナの積込み)のため出荷先の工場に向かう輸送を行っていました。私たちは、片道空くの走行がどうにかならないかと感じていました。

 

吉田運送:藤本さんは当時も香港の船会社のOOCL(Orient Overseas Container Line Limited社の略称)日本支社に在籍されていたのですよね。現状を変えるべく、何かエッジの効いた開拓をしようと努力されていたわけですか?

 

藤本さん:船会社の各社の海上運賃は誤差程度で、航路も一緒、あとは箱の色の違いしかないわけだから、環境戦略とベースにした企画をしたいと。その頃、海上運賃の相場が下がり、倒産する船会社も出てきました。今度は陸に上がりゲリラ戦です。

 

吉田運送:戦いの場所が変わったわけですね。

 

藤本さん:そうです。新しいことを何か始めなかったら外国の船会社は市場に入る余地がないじゃないかと思いました。そこで僕が実際に現地に向かって調査をしたら、片道は完全に空車で移動していて、なんとも無駄なことが行われていました。そこで、インランドデポを作り、ラウンドユースを行って効率的な仕組みを導入できないか、取り組みを始めたのです。

 

◇インランドデポの始動

 

藤本さん:たまたま当時、OOCLの社長がVALUE CREATION、価値を創造しろ、と唱えていて、僕も1か月に1つアイデアを出そうと努力しました。OOCLがラウンドユースをやるにあたり、社内にスペシャルプロジェクトが設けられました。当初は別枠として1人で進めていたのですが、船会社の立場として推進していくのには立場的にも限界があることがわかってきて、別組織で任務を進めることになりました。

 

吉田運送:一人で切り込めと?(笑)

 

藤本さん:はい!営業活動の不利になるということもあり、他の社員からは白い目でみられましたね。もう敵だらけになってしまいました(笑)。唯一の味方は、海外にある本社の意図を汲んでいる社長だけでしたが、それ以外は皆が情報を隠したり、捻じ曲げて伝えてきたりして大変でした。ところがね、現場の人たちは、ちゃんと本当のことを教えてくれるのですよ。とある荷主からどのくらい輸出コンテナが出ているのか、とか。会社の営業マンや課長、部長も把握しきれていないことをね。運送会社の現場の人間は、どこのコンテナが一日何本動いているか、色は何色かを全て把握しているのです。

 

吉田運送:海上コンテナの情報なのですが、船会社ではなくむしろ我々運送会社に溜まっていたことに気付かれたのですね?

 

藤本さん:上からは、どんどんデポを作れと指示が来ました。インランドデポの現場では、リアルなマーケットが見ることができ、さらにマーケティングが進みます。協力的な運送会社があり進言をしてくれたりもしました。現場担当者の言葉は強いです。デポを作り、効率化は進んでいきました。吉田運送も、昔は空シャーシで京浜港まで牧草コンテナを取りに行き、荷下ろし後に再び、空コンテナを返却しに京浜港に行き、空シャーシで帰ってきていたのですよね?

 

吉田運送:そうですね。もしくは空シャーシで走るのがもったいないので、ディテンションチャージ(空コンテナ返却期限延滞金)がかかっても返さないことにしていました。今も、東北の運送会社はその方式でやっていると聞いています。

 

◇独占せず解放。物理的、情報的なハブとして機能。

 

藤本さん:お客様の目線で考えると、OOCLだけしか使えないのでは駄目だと感じていました。そこでOOCLと微妙に運行スケジュールが違う船会社に声を掛けて一緒にデポ作りに回ったのですよ。

 

吉田運送:弊社の場合、クボタ様のラウンドユースが転機になりました。稼働を進めていく中で、取り組みが評価され、経済産業大臣賞を取って、他の船社とも契約を結ぶことになりました。

 

藤本さん:経済産業大臣賞は受賞されたのはいつ頃のことでした?

 

吉田運送:2013年12月に表彰されましたから、その1~2年前、2011年頃の事業が評価されたのだと思います。OOCLでクボタ様のラウンドユースを行い実績も積んだので、他船会社や輸入企業を呼んでマッチングをする動きを始めていきました。でも考えてみれば、藤本さんの立場からすれば、せっかく作ったデポを他の船社と契約されてしまうわけですよね。藤本さんの実感や、社内での声はどうだったのですか?

 

藤本さん:ノウハウを他の船会社に渡すことをよしとしない人間もいましたね。2002年にESCOTを立ち上げたのは、インランドデポの取り組みは結局1社だけでできるものではないし、何より運送会社と船会社は対等な立場でないといけないと思ったからです。荷主の本音は、1社に限定されず、いろいろな船会社と運送会社を使いたいところにあります。ESCOTはNPOですので、特定企業と利害関係を持ってはいけないのです。

 

吉田運送:インランドデポのハブ機能が高まった結果、NPOであるESCOTが誕生して公共性を担保し、各社の効率的な経営が成り立っていく。サービスを構築していく上で結果論的に経営が成り立つ、未来的なステップになっていったと弊社も実感しています。そこから環境問題への貢献も見えてきました。

 

◇総走行距離を大幅に短縮するラウンドユースは環境にやさしい

 

藤本さん:前回のESCOTのセミナーでCO2削減認証書事業を始めました。軽油1リットルを消費すると2.62kgのCO2が出ます。コンテナ輸送用のトレーラーは1リットル2.3kmしか走行できないので、230km空コンテナ走行では262kg(軽油100リットル分)のCO2が排出されます。

 

吉田運送:当初は効率的で、高収益である運送形態としてのラウンドユースと言う観点で弊社も取り組んでいましたが、環境に対しての貢献という観点でも見られるようになり、その点もPRしていきたいと思っています。なにせ、単に輸送の際に弊社を選んでいただくだけで、それだけのCO2削減効果が得られるのですから。これは営業上の戦略を越えて、PRすることが環境のためになると感じています。

 

◇相次ぐ異常気象。海と陸の港の二重化の必要性 台風の度重なる上陸でも稼働したインランドポート

 

藤本さん:インランドポートはただCO2を削減できるだけではありません。最近では異常気象が続きているけど、この間の台風(令和元年台風第19号)などの災害時に、京浜港でピック出来なかったコンテナを被害のない内陸でピックできたのはまさに不幸中の幸いでしたね。

 

吉田運送:災害時、海に面した通常の港はどうしても不安定になります。地震では津波があるかもしれないし、台風も海からやってくる。海岸を離れた内陸にストックしておくことは必須だと先日の台風の時にも実感しました。思わぬ効果ではありましたが、インランドポートによるラウンドユースの普及はこれからも続けていかなければならないという思いを新たにしました。

これまでインランドデポは物理的、情報的なハブとして海上コンテナ輸送の効率化・適正化に貢献してきました。混雑の増す海の港の効率化への貢献、運送の収益性向上、運送力の供給増大のみならず、相次ぐ異常気象における補佐的な機能などますます大きな役割が見えてきました。そのことの自負と責任を感じ、気が引き締まる思いがしました。

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